大腸肛門機能診療センター

便秘症

疾患概要

これまで便秘は3日以上排便がない状態などと言われていましたが、明らかな定義はありませんでした。2017年に出版された「慢性便秘症診療ガイドライン」によると、便秘とは「本来対外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。つまり、毎日排便があったとしても十分に快適に排便できていない場合は便秘として診療しようとされています。一方で、1週間に1回でもすっきり定期的にお通じがある人は便秘と呼ばないということになっています。しかし、一般的には3日以上に1回や週に2回以下の場合、便秘と呼ぶことが多いです。

症状

  • 便秘症とは、便を出すのに苦労する(排便困難)、便が残っている感じがする(残便型)、排便回数が少ない、お腹が張る(膨満感)、痛い、苦しいなどという症状がみられます。

原因

便秘は大きく2つに分けられ、大腸の動きが悪く便が直腸まで運ばれるのに時間がかかるタイプと、便はお尻の近くまできているのにうまく排便できないタイプがあります。さらにその中で、腸に何かができていたり形が変わってしまう「器質性」の便秘と、腸や筋肉の動きの異常による「機能性」の便秘に分けられます。その他に病気による便秘や、他の病気治療のために服用している薬が原因で便秘になることもあります。

タイプ 機能性 器質性
大腸通過遅延型 特発性 薬剤性 パーキンソン病 過敏性腸症候群 大腸がん クローン病
排便困難型 骨盤底筋
協調運動障害
腹圧低下 直腸感覚低下
直腸瘤 直腸重責

検査

便秘治療の重要なポイントは、大腸通過時間遅延型か排便困難型かに分けて治療することです。そのため、必要に応じて検査を行います。

検査内容

  • 直腸指診

    指を肛門内に挿入して、肛門が狭くなっていないかどうか、直腸内の便の貯留状態を確認します。また、指を入れたまま「お通じするように力んでみてください」と声をかけ、恥骨直腸筋の奇異な収縮がないかどうかを確認します。更に女性の場合は、いきんだ時に軽く直腸前壁を押してみると直腸瘤の有無を感じることができます。その際、膣側から膣後壁を観察し、どの程度突出するかを確認します。

  • 腹部単純XP(レントゲン写真)

    おなかの状態をレントゲンで撮影します。腸の中のガスの溜まり具合などが分かり、腸管の走行が確認できることがあります。また腸の中の便が溜まっている場所や性状が分かることもあります。

  • 大腸通過時間検査(経口マーカー腸管移送時間測定)

    3日間形状の異なるマーカーを内服し、4日目に腹部単純レントゲン撮影をします。どの位置にマーカーが存在するかによって便秘を分類し、治療法を選択します。

  • 排便造影検査(デフェコグラフィ―)

    バリウム、水、小麦粉を混合した疑似便を直腸内に注入し、透視台に設置されたポータブルトイレに座ります。安静時、収縮時を観察した後に造影剤を排出してもらい、怒責時の状態を静止画または動画として撮像します。撮像した画像から直腸の曲がり具合を測定したり、骨盤底筋群の協調運動を観察します。また直腸の形状が分かるので直腸瘤の有無や程度を測定します。

  • バルーン排出検査

    直腸内にバルーン(風船)を挿入し、直腸内で膨らませて排出してもらいます。どの程度の空気を挿入したバルーンを排出できたかで排出能力を測ります。

  • 怒責時直腸肛門内圧検査

    2ヶ所以上同時に圧を測定できる多チャンネルのカテーテルを直腸肛門内に挿入します。排便をする時と同じように力んでもらい、直腸と肛門の圧力の変化を記録します。

  • 直腸バルーン感覚検査

    直腸内にバルーン(風船)を挿入し、どのくらいの量で便意を感じるのか(初期感覚閾値)、排便に行きたくなるか(便意発現最少量)、便意を我慢できる最大量(最大耐容量)を測定します。

  • 骨盤部動態CTまたはMRI検査

    安静時と怒責した後の骨盤部のCT、MRIを撮像します。骨盤内臓器の下垂状態や骨盤の筋肉の動きを確認します。

  • 大腸内視鏡検査

    腸の洗浄剤を飲んで大腸をきれいにしたあと、大腸カメラを肛門から挿入し大腸がんなどの器質的疾患の有無を確認します。

  • CTコロノグラフィー

    肛門から大腸にガスを挿入し膨らませた後CTを撮ります。コンピューターで解析して3D画像を作り出し、大腸の形や大腸がんなどの器質的疾患の有無を確認します。

治療

機能性の大腸通過遅延型の場合

  • 生活習慣

規則正しい生活をすることによって、体の中に排便のリズムを作ることが重要です。人間は概日リズムという体内時計を持っています。体内のリズムと腸のリズムは密接な関係にあり、不規則な生活を送っていると腸のリズムが狂い便秘になってしまいます。一番自然なのは、朝食を摂った後に起こる大蠕動後に排便することです。落ち着いてしっかりと食事をして、便意をもよおしたら我慢せずに排便をしてから外出することが理想です。

  • 食事療法
  • 栄養バランスのいい食事

    主食+主菜(肉、魚、卵、豆類など)+2~3品(芋、豆類、野菜、海藻類、ナッツなどの果実類など)を組み合わせ、フルーツや乳製品もとりましょう。

  • 1日3食が基本

    朝食は必ずとりましょう。朝、胃の中に食べ物が入ることによって、便を出そうとする腸の反射が強く起こります。

  • 腸を刺激する食品を利用

    かんきつ類などの果物、冷たい牛乳やビタミンB1(穀物、豆類など)は腸の動きを活発にしてくれます。

  • 水分を十分にとる

    1日の飲料水は1000~1500mlが目安。水分をこまめにとることによって便が軟らかく排便しやすい状態になります。また、冷たい水の刺激は腸の動きを活発にします。

  • 脂肪も適量に摂取する

    適量は大スプーン1杯/日が目安。脂質に含まれる脂肪酸が腸を刺激して排便をスムーズにします。

  • 食物繊維を摂取する

    食物繊維には水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維があります。不溶性食物繊維は穀類、イモ類、根菜類に多く含まれており、腸内で消化・吸収されず、カスとなって便量を増やし、腸に刺激を与えて腸内の停滞時間を短くします。一方で、水溶性の食物繊維は海藻類、果物類に多く含まれており、腸内細菌を整え腸の動きを活発にしたり、血糖値の急上昇の抑制効果もあります。食物繊維は不溶性と水溶性の食物繊維合わせて1日20~25g程度摂取が理想です。不溶性の食物繊維は腸管の動きを活発にしますが、多く摂りすぎると硬便や腹部膨満感の原因になることもあります。不溶性と水溶性の食物繊維をバランスよく摂取することが大切です。

  • 運動療法

腸管運動を促進するのは、激しい運動よりも有酸素運動です。ラジオ体操やテレビ体操などの「ねじり」がある運動は腸管を刺激し、また自律神経のバランスを保ち腸管運動を整えると言われています。また、体幹筋トレーニングも有効です。体幹筋とは腹筋だけでなく、胴体を取り巻いている筋肉で、骨盤底の筋肉なども含めます。体幹筋を鍛えると便の排出力が高まり排便しやすくなるということで、高齢者の便秘に対して近年取り入れられています。
排便に必要な腹筋を鍛えるため、無理のない範囲で筋力を維持するようにしましょう。

  • 当院で行っている運動指導
  • 腸管トレーニング:しっかり動いて腸に刺激を与えます。
  • 腹横筋トレーニング:腹筋の奥にある腹横筋を鍛えることで、腸に刺激を与え排便を促します。
  • 薬物治療

下剤を使用する時には注意が必要です。
下剤には多くの種類があります。その中でも刺激性下剤は腸を刺激して便を運ぶ運動(蠕動運動)を高めることで排便を促す薬です。短期間の場合、例えば旅行中に便が出にくくなった場合などに数日間頓服することは問題ありません。しかし、慢性的に長期間服用していると、大腸が茶色や黒色に変化し、蠕動運動が減弱し内容物を送る力が弱くなります。これによりさらに便秘が増悪することがあります。市販薬の大半は刺激性成分が含まれています。基本的に便秘薬は漫然と服用しないように気をつけましょう。
ここ数年で、刺激性ではない便秘薬が発売されています(病院で処方する薬です)。医師に相談して、個人個人に合う薬を検討してもらいましょう。
その他、下剤を服用する注意点として、服用を始めて腹痛や嘔気を認める場合は、内服する量や回数を減らしてください。ほとんどの下剤は自己調節が可能です。例えば1日3回で処方されている場合は1日2回や1回に減らし、それでも効きすぎている場合は内服を中止し、医師や薬剤師に相談してください。

  • 補足

パーキンソン病などの代謝・内分泌疾患、神経・筋疾患による便秘や向精神薬、抗うつ剤、抗コリン剤、オピオイドなどの他の病気のために服用している薬が原因となる便秘があります。治療は基本的な便秘治療と同じで、食事、運動、生活習慣の改善、腹部マッサージ、薬物療法などです。パーキンソン病は体の動きが硬くなって運動できなくなる病気ですから、運動に関してはできる範囲での運動となります。理学療法士などのリハビリテーションをしっかりと受ける必要があります。また、便秘症状からパーキンソン病が見つかることもあります。

器質性の排便困難型の場合

出産などが原因で直腸に器質的な変化をきたす直腸瘤の患者さんには、恥骨直腸筋の奇異性収縮(排便する時に筋肉がしまってしまう)を認めることがあります。そのため、まずは理学療法を先行し、バルーン排出訓練を行います。直腸に入れた風船を排出してもらう際に、腹横筋の収縮方法と骨盤の筋肉をリラックスする方法を指導します。排便する時は前屈みの姿勢がよいのですが、直腸瘤がある場合は、少し上半身を後ろに反らすと出やすくなる方もいます。効果が不十分な場合は手術を行うことがあります。直腸と膣の壁を巾着状に縫い縮めて、さらに筋肉で補強する直腸膣隔壁縫縮術などです。メッシュシートという人工物を用いた修復術もありますが、シートが露出するなどの合併症が多く報告され、あまり推奨されていません。
また、直腸重積でもまずはバルーン排出訓練を先行して行いますが、効果が不十分な場合は、手術で直腸粘膜切除術や直腸固定術などを行います。

器質性の大腸通過遅延型の場合

便が通過できなくなっている原因の病気(大腸がんやクローン病、虚血性大腸炎)に対する治療を行います。

機能性の排便困難型の場合

基本的には大腸通貨遅延型の便秘と同じで、食事療法・運動療法など生活習慣の見直しを行いながら緩下剤などの薬物療法を行っていきます。

  • それに加えて、直腸肛門機能回復訓練という有効な治療法があります。訓練の内容は以下の通りです。
訓練の種類 目的 適応
排出訓練 いきみ方を練習し、いきむ力を強くする。 いきむ力が低下している。又はいきみ方に問題がある。
バイオフィードバック訓練 肛門の動きを良くする。 肛門を動かす力が弱かったり、うまく動かせない。
排便感覚訓練 直腸の感覚を鈍化させ、過敏症状を改善する。 直腸が過敏で便意が頻回にある。
  • 排出訓練

直腸の中にバルーンを入れ、空気を注入して膨らませ、擬似的に便を作ります。これをいきんで排出する訓練です。
上手に排便するポイントとして

  • 腹圧(腹筋)をかけること
  • 肛門を上手に弛緩させること

があります

長年の排便習慣でいきみ方が変わってきて、肛門の弛緩ができなかったり、逆に締めてしまう方もいます。また、排便の姿勢が悪く腹圧がかかりにくくて排便できない方もいます。訓練では、腹圧のかけ方、肛門の弛緩の方法、排便姿勢を含めて指導します。

  • バイオフィードバック訓練

自分では肛門を締めているつもりでも、実際は臀部や足の筋肉に力が入っている方がいます。その場合、いくら自己訓練を繰り返しても肛門の筋力を上げることはできません。そこで肛門にセンサーを挿入し、肛門の括約筋が働いていることを確認しながら訓練の方法を覚えます。その後は自宅で自己訓練を続けます。

  • 排便感覚訓練

直腸内のバルーンに空気を入れて膨らませ、便意を我慢して感覚を鈍感化させます。繰り返し行うと、次第に過敏症状が軽減します。

大腸肛門機能診療センター

高野 正太

大腸肛門機能(直腸や肛門のはたらきと形状)を、最先端機器と豊富な知識で運動・感覚両面から捉え検査・診断を行い、最適な治療法を選択しています。筋電図検査による簡易筋電図法を確立するなど専門病院ならではの充実した検査体制に加え、医師をはじめコンチネンスリーダーと呼ばれる排泄ケア専門看護師を配置し、臨床検査技師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、診療放射線技師、医療ソーシャルワーカー、臨床工学技士などによるチーム医療で生活指導や集学的治療を実践しています。

院長
大腸肛門機能科部長
大腸肛門機能診療センター長

高野 正太 (たかの しょうた)