大腸ポリープ
疾患概要
大腸の粘膜面がいぼ状に盛り上がった病変の総称です。あくまでも形態的な用語で、隆起の原因は問いません。ポリープの形も様々で、有茎性(キノコのように茎があるもの)、無茎性(茎の無いもの)、亜有茎性(両者の中間)など、またはほとんど扁平な形のポリープもあり、表面隆起型、表面平坦型、表面陥凹型などと呼ばれています。
大腸ポリープは、食道、胃、小腸を含めた全消化管ポリープの約80%を占め、大腸の中ではS状結腸から直腸に約70%ができます。性別では、およそ2:1の割合で男性に多く、年齢別では各年代に発生しますが50代~70代で過半数を占めます。
はじめはごく小さな粟粒ほどの大きさですが、次第に大きくなっていくものもあり、大きくなるとがん化する率も高くなります。ある程度の大きさなら内視鏡で完全に取ることが可能ですので、早期に発見することが必要です。
原因
大腸ポリープは大腸粘膜の表面の細胞が異常に増殖してできるものです。大腸ポリープができるおもな原因として、遺伝子の異常があります。大腸がんの発生には、複数のがんに関連した遺伝子の異常が関係しています。図に示すように、正常の細胞から腺腫が発生し、さらにがんへと発育進展していくのにAPC遺伝子、K-ras遺伝子、P53遺伝子などの異常が関与しています。これは、大腸がんの他段階発がん説といわれています。その他に腺腫を経ないで正常の細胞からがんが発生する場合もあります(これをデ・ノボがん説といいます)。デ・ノボとはラテン語で最初からというような意味があります。デ・ノボがんでは、K-ras遺伝子に異常が無いことも多く、現在遺伝子の研究が行われています。
また、大腸がんの中には高率に家族内に発生するものもあります。代表的なものは家族性腺腫性ポリポーシスという疾患で、常染色体優性遺伝で伝えられ、APC遺伝子というがん抑制遺伝子の異常で発生することがわかっています。他にガードナー症候群(家族性腺腫性ポリポーシスに頭や顎の骨の変化を伴ったもの)、遺伝性非ポリポーシス大腸癌、ポエッツ-イェガース症候群(消化管ポリープに皮膚や粘膜の色素沈着を伴ったもの)なども遺伝子の異常を伴います。
最近では、メタボリック症候群とポリープの発生についても研究が行われています。肥満者が腺腫性ポリープの発生が有意に高いことが報告されています。
大腸ポリープのがん化
ポリープのなかでも腺腫性ポリープは全体の約80%を占めています。この腺腫性ポリープはそのまま放置しているとがん化する可能性があるといわれます。「ポリープのがん化」というより「腺腫のがん化(アデノーマ・カルチノーマ・シークエンス発がん説)」の方が正しい考え方です。腺腫は、いわば大腸がんの「芽」のようなものです。腺腫の中にがんが合併している割合をみても、大きいものほどがんになりやすい傾向にあります。このことは、高野病院で治療した18,000個のポリープの内訳をみてもいえることです。
本邦の大腸ポリープ取扱規約では、5mm未満のポリープは積極的な治療は行わず経過観察とする考え方も示されています。しかし、わずかながら5mm未満の微小がんもみられ(0.5%)、定期的な観察をする必要性、その間の患者さんのご不安などもあり、当院では腺腫であれば5mm未満の大きさでも積極的に切除し、ポリープのない状態(クリーンコロン)を目指す方針としています。
腺腫性ポリープを放置しているとどうなるか?
発見されたポリープを治療せず、長期間観察した研究はほとんど行われていません。発見したポリープを何もせず放置しておくことは倫理的に許されないのがわが国の現状です。
私たちは次のような患者(Aさん)を経験しました。5mmのポリープが発見されましたが、Aさんの都合で5年程放置されていました。5年後には20mmに大きくなっており、がん化していました。この1例からも、発見されたポリープは放置せず、早めに治療した方がよいといえるでしょう。
前がん状態である腺腫性ポリープを摘除することにより、大腸がんの発生を予防できるといえます。
検査
- 便潜血検査
- 大腸内視鏡検査
- CT検査
治療
内視鏡治療
- ポリペクトミー(クリップによる切除断端の縫縮)
ポリープの基部をスネアという特殊なワイヤーで締めつけ、高周波電流を流して切除する方法です。ポリープ切除後の創部は縫縮することにより、治療後の出血や穿孔などの偶発症を防止します。クリップは数日から数週間後に自然に脱落し、排便とともに排出されます。たとえクリップが残っていても除去する必要はありません。
- 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
- 適応:平坦なポリープ・腫瘍、基部が大きなポリープ・腫瘍、表面型腫瘍
ポリペクトミーでは完全に切除できない場合に、ポリープの基部に薬液を注入し、ポリープや腫瘍を十分に浮き上げたうえで切除する方法です。
- 特殊な治療:内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
病変の基部および周囲に薬液を注入し十分に浮き上げて、周囲を切開し粘膜下層を剥離していく方法です。
- 利点:
- EMRでも切除が難しい病変が治療司能になり、適応が拡大しました。
- 一括切除による正確な病理学的診断が可能です。
- 欠点:
- 高度な技術を要し熟練した医師に限られます。治療時聞も長くなります。
- 偶発症発生率が高い(特に穿孔)。
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内視鏡センター
当内視鏡センターは患者さんにやさしい施設を目指し、前処置から検査、安静、結果の説明までをワンフロアで行い、安全で正確な診断と確実な治療を実践しています。がんや肛門病変が見つかった場合は、各診療科や他のセンターと連携し、胃・大腸肛門を中心に消化管疾患に速やかに対応しています。
内視鏡センター長