大腸肛門機能診療センター

直腸膣壁弛緩症・直腸瘤・レクトシール

疾患概要

直腸瘤(りゅう)は直腸膣壁弛緩症(ちつへきしかんしょう)やレクトシールとも呼ばれ、直腸と膣の間の壁が薄くなり、直腸が膣の方へ袋状に突き出てくるものです。便を出そうと力んでも、この袋に便が溜まり外に出にくくなります。自分の指で膣の後方の壁を押して便を出すという、特殊な排便方法をされている方もいらっしゃいます。直腸瘤は人口の20%から80%に認めると言われており、症状がなくても女性には多い疾患です。

原因

直腸瘤は骨盤底下垂の一病態と考えられ、骨盤底の脆弱からの骨盤内蔵器下垂にて直腸膣壁が膣後壁に入り込むヘルニアの状態。原因として出産による支持組織の脆弱や直腸膣壁の菲薄化、陰部神経の損傷が挙げられます。その他、子宮摘出、肥満、便秘、便排出障害からの過剰ないきみ、呼吸不全からくる頻回な咳なども挙げられます。

症状

  • 排便時に膣が膨隆し、指でその膨隆を押さないとうまく排便できない。
  • 排便困難感(便が出そうで出ない)
  • 残便感、頻便

検査・診断

  • 指を肛門内に入れ、肛門と膣の間に膨隆があるか確認します。
  • 排便造影
  • 便状にしたバリウムを肛門に入れ、排便を再現して直腸や肛門の動きを観察します。

  • 肛門内圧検査
  • Dynamic CT
  • 骨盤底動態CT

  • MRI
  • 安静時、怒責時にMRIを撮像します。骨盤内蔵器の動態を評価できます。

  • 経肛門超音波検査
  • 直腸内に肛門エコー用ゼリーを充満させた後に、エコープローブを挿入、怒責しゼリーを排出させた状態を3Dとして記録します。

治療

まず保存療法を行い、症状の改善が少ないときには手術が適応されます。

保存療法:手術を行わない治療法

  • 便性を整えるため、食事療法、排便習慣の改善、有酸素運動などの運動療法、生活習慣、腹部マッサージなどの指導および緩下剤などの薬物療法を行います。
  • バルーン排出訓練

    バルーンを用いた排出トレーニングにて骨盤底筋群のリラクゼーションを指導します。骨盤低筋群の協調的な収縮と弛緩を学習していただきます。直腸内でバルーンを50mLの空気で拡張させ、バルーンを牽引しつつ患者に肛門管を収縮させバルーンを保持し、次に肛門を弛緩させバルーンを排出するようにしていただきます。施行者はバルーンの抵抗感から肛門が弛緩していることを確認し、また下腹部を触診し腹横筋の収縮を確かめます。

  • 筋電計を用いたバイオフィードバック療法

    肛門用電極を肛門内に挿入し、腹筋用電極を外腹斜筋上の皮膚に貼付し、座位で患者が電気的変化をモニターで見ながら肛門を緩めたまま腹筋に力を入れて怒責するトレーニングを行います。
    骨盤底協調運動障害の病態と筋電図波形の意味を十分に説明したうえで、肛門括約筋の収縮、弛緩、怒責を自分のタイミングで繰り返して、怒責した時に肛門筋電計の波形が極力上昇せず、低くなだらかな波形を描くよう訓練していただきます。それと同時に腹筋筋電計の波形が最大限に上昇するようにします。

手術療法

  • 保存療法にて効果がないまたは不十分な場合に行います。大きく経膣、経肛門、経腹手術に分けられます。
  • 経膣手術

    ①膣壁縫縮:膣後壁粘膜を剥離し直腸と膣の間膜をタバコ縫合し縫い縮めてpouchを縮小します。その際に前方括約筋形成術を加えます。
    ②Anterior Levatorplasty:膣後壁を切開し膣壁の剥離を進めて恥骨直腸筋および肛門挙筋を露出し、左右の恥骨直腸筋および肛門挙筋を縫合し膣壁を閉鎖します。
    ③Transvaginal mesh surgery(TVM):膣後壁を切開し直腸と剥離します。膣後壁と直腸前壁の間にメッシュを留置し、アームを靭帯に固定します。TVMはメッシュの露出が問題となっています。

  • 経肛門手術

    ①直腸膣中隔縫縮:余剰な直腸粘膜を切除し、弛緩した直腸膣壁を縦または横方向に縫い縮めます。
    ②Internal DelormeまたはAnterior Delorme:直腸脱に行うDelorme法を応用した方法です。前壁を中心に直腸粘膜を筋層より剥離。筋層を蛇腹状に縫縮し直腸を短縮し、直腸粘膜を縫合します。
    ③Stapled rectal resection:PPH(Procedure for Prolapse and Hemorrhoid)に用いる自動吻合器を使用して直腸粘膜を切除する方法はSTARR(Stapled trans-anal rectal resection)などいくつかの方法があります。

  • 経腹手術

    Laparoscopic ventral rectopexy:腹腔鏡下に直腸を剥離挙上しメッシュを用いて固定し、骨盤底形成を行います。

大腸肛門機能診療センター

高野 正太

大腸肛門機能(直腸や肛門のはたらきと形状)を、最先端機器と豊富な知識で運動・感覚両面から捉え検査・診断を行い、最適な治療法を選択しています。筋電図検査による簡易筋電図法を確立するなど専門病院ならではの充実した検査体制に加え、医師をはじめコンチネンスリーダーと呼ばれる排泄ケア専門看護師を配置し、臨床検査技師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、診療放射線技師、医療ソーシャルワーカー、臨床工学技士などによるチーム医療で生活指導や集学的治療を実践しています。

院長
大腸肛門機能科部長
大腸肛門機能診療センター長

高野 正太 (たかの しょうた)