IBDセンター

潰瘍性大腸炎

疾患概要

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis / 頭文字をとって「UC」という略称も使われます)は、大腸の粘膜に炎症が起こり、潰瘍ができる炎症性の腸疾患です。炎症は直腸から広がり大腸全体におよぶ場合もあり、病変の広がりや経過によって細かく分類されます。また、病期により症状が出ている時期を「活動期」、症状が出ていない時期を「寛解(かんかい)期」に分類されます。

病変の広がりによる分類

症状の経過による分類

  • 再燃寛解(さいねんかんかい)型

症状が出たり消えたりを繰り返す

  • 慢性持続型

症状が消えずに、軽くなったり重くなったりしながら出続ける

  • 急性電撃型

急激に強い炎症が出現し、緊急手術が必要になる場合もある

  • 初回発作型

最初にのみ症状が出現し、その後は症状があまり見られない

症状

主な症状は下痢、血便、腹痛です。症状の重さにより以下のように分類されます。

  • 軽症
  • 軽度の下痢(1日4回以下)
  • 少量の血便
  • 中等症
  • 発熱・頻脈はみられない
  • 軽度の貧血
  • 赤血球沈降速度:1時間30mm以下
  • 軽度と重症の中間の臨床像
  • 重症
  • 激しい下痢(1日6回以上)
  • 血便
  • 発熱(37.5℃以上)
  • 頻脈(平均1分間90以上)
  • 貧血(ヘモグロビン(Hb)10g/dl以下)
  • 赤血球沈降速度:1時間30mm以上
  • 劇症
  • 重症の診断基準を満たしている
  • 1日に15回以上の血性下痢が続く
  • 38度以上の持続する高熱がある
  • 白血球数:10,000/㎣以上
  • 強い腹痛

病気の経過については様々なタイプがあるので一様ではありません。しかし、全体の8割以上の方が再燃と寛解(よくなったり悪くなったり)をくりかえすようです。再燃時の症状の重さは様々で、軽い症状の方もいれば重い症状の方もいます。

原因

潰瘍性大腸炎は原因がわからないことから、厚生労働省により特定疾患(難病)に指定されており、現在のところ完全に治るという治療法は確立されていません。最近では、リウマチなどと同じような「自己免疫性の病気」ではないかといわれています。免疫とは、体内に入ってきた異物(細菌やウイルスなど)を見張り役の細胞(白血球など)が攻撃し退治するしくみです。自己免疫性の病気では、この反応が自分の身体に対して起こります。潰瘍性大腸炎に当てはめると、腸の粘膜を異物とみなした顆粒球(白血球の一種で炎症の原因となる細胞)が活性酸素を放出し、腸の粘膜を攻撃して傷つけるのです。

※活性酸素: 反応性が高い酸素分子種で、体内のストレス物質の一つ。生体内で殺菌作用などに利用されるのみならず、細胞内のDNA、たんぱく、脂質などを破壊し、老化や発がんの原因になる。

検査

検査内容

  • 問診

    詳しい問診を取り、症状や生活習慣、何で困っているのか、何を問題としているのか等をお尋ねします。

  • 血液検査

    貧血や炎症反応に関する項目の異常を認めることがあります。

  • 内視鏡検査

    炎症の部位、程度、範囲を確認します。組織を採取して病理検査(生検組織検査)を行うこともあります。

※必要に応じてレントゲン検査やX線造影検査、CT検査、MRI検査などを用いて調べます。

治療

潰瘍性大腸炎の治療においては、症状が消失する寛解状態に導き、その状態を長く維持することが重要になります。あくまで内科治療が主になります。どうしても内科治療で改善がない場合や、一時的に改善するがすぐに再燃してしまい日常生活に支障がある場合、また手術をしないと命に関わる場合に手術を考慮します。

薬物療法

病変が大腸に限局しているため薬物療法が主となります。病状の重症度や炎症の部位に合わせて、薬物の種類や使用法、使用量が詳細に選択されます。

顆粒球吸着除去療法(GMA)

GMAは血液の一部を体外に取り出し、白血球、特に顆粒球・単球を選択的に除去した後血液を体内に戻します。ステロイドなどの薬物療法で効果が得られにくい場合や、副作用等の理由で薬物を減量したい患者さんがこの療法の適応となります。薬物療法と比べて副作用が出にくいという特徴もあり、活動期にGMAで炎症を軽減させて寛解期に導入する使い方もあります。

外科的治療

手術の対象となる炎症性腸疾患の患者さんは一般に栄養状態が悪く、ステロイドを投与されていることも多いため、免疫力が低下しています。そのため手術時期が非常に重要であり、内科医から外科医への紹介のタイミングが大事になります。当院では内科医、外科医が一緒に炎症性腸疾患の治療を行っておりますので、適切な時期に手術を行うことが可能です。

  • 手術適応
  • 手術時期
  • 大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症、強力な内科治療(前記)が無効な重症型、劇症型に対しては緊急、準緊急手術を行います。
  • 難治例に対しては患者の全身状態、術前内科治療を考慮し、時期の遅れがなく手術を行います。特に高齢者や重症合併症を有する患者では早期に外科医と相談し、手術の判断を行います。
  • 手術術式の選択

主な手術術式は下記の5種類で、現在の標準術式は大腸全摘、回腸嚢による再建術です(①、②)。手術術式は患者の全身状態、年齢、腸管合併症、治療薬剤の副作用などを考慮して選択することが原則です。

  • 大腸全摘、回腸嚢肛門吻合術
    (IAA:Ileoanal anastomosis)

    直腸粘膜抜去を行って病変をすべて切除し、回腸で貯留嚢を作成して肛門(歯状線)と吻合する術式で、根治性が高い。通常は一時的回腸人工肛門を造設します。

  • 大腸全摘、回腸嚢肛門管吻合術
    (IACA:Ileoanal canal anastomosis)

    回腸嚢を肛門管と器械吻合して肛門管粘膜を温存する術式です。回腸嚢肛門吻合術に比べて漏便が少ないが、肛門管粘膜の炎症再燃、癌化の可能性があります。 術後は定期的内視鏡検査を行います。

  • 大腸全摘、永久回腸人工肛門造設術

    肛門温存が不可能な進行下部直腸癌例、肛門機能不良例、ADLの低下している高齢者などに行います。

  • 結腸全摘、回腸直腸吻合術

    直腸の炎症が軽度の症例が対象で、高齢者などに行うことがあります。手術時合併症が少なく、術後排便機能が良好であるが、残存直腸の再燃、癌化の可能性があり、残存直腸に対する術後治療や術後の定期的内視鏡検査を行います。近年、あまり施行されません。

  • 結腸亜全摘、回腸人工肛門造設術、S状結腸粘液瘻
    またはHartmann手術

    侵襲の少ないことが利点であり、全身状態不良例に対して肛門温存術を行う前の分割手術の一期目として行います。重症例に対して緊急手術として本手術を専門施設以外で行う場合はその後の再建手術を専門施設で行うことを考慮します。 また、クローン病やinflammatory bowel dis-easeunclassified(IBDU)が疑われる症例には本法を施行し、切除術後標本の病理組織学的な検索を行った後にニ期目の手術術式を検討します。

  • 潰瘍性大腸炎に対する主な術式

※外科的治療については、潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針(厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業)「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和3年度分担研究報告書より引用

IBDセンター

高野 正太

指定難病であるクローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患(IBD)の早期発見や的確な診断・専門的治療はもちろん、IBD に伴って現れる病気も含め、消化器内科医だけでなく他の診療科や看護師をはじめ薬剤師、管理栄養士、臨床工学技士、医療ソーシャルワーカーなどの専門スタッフがチームとなり、安心して治療を受けられるよう患者さんに寄り添った医療を実践しています。

院長・IBDセンター長

高野 正太 (たかの しょうた)