LARS(低位前方切除術後症候群)
疾患概要
直腸がん手術で直腸を切除した後に生じる排便障害のことで、「低位前方切除術後症候群(LARS:ラース)」と呼ばれています。
直腸がんの手術療法には様々な術式があり、「低位前方切除術」や「括約筋間直腸切除術」はがんを切除後、肛門を残すものですが、
長期的に見るとかなりの確率で排便機能に障害が起きています。これは、癌のできた部位(直腸癌の肛門からの距離)と進行度に大きく関与している合併症です。
症状
具体的なLARSの症状は、便意逼迫(排便を我慢できない)、便失禁(もれる)、排便困難(便をうまく出せない)、頻回排便(何度も出る)などです。程度の差はあれ直腸がん術後患者さんの8割程度に生じるとする報告もあります。
その他、LARS以外の術後障害として排尿障害がみられる事もあります。勢いよく尿を出せない、残尿がある、尿漏れが生じるなどの症状が起こります。また、特に男性の性機能は術後障害を受けやすいことがわかっています。
原因
- 直腸を切除したため便を溜められない
- 肛門括約筋の筋力の低下
- 肛門、直腸周囲の神経損傷
- 肛門管の知覚神経へのダメージ
直腸の両脇には神経の束があり、ここから膀胱、生殖器、および直腸・肛門に分布しています。直腸がんの手術中にこれらの神経を損傷すると機能障害が生じることがあります。 腫瘍の部位や進行度によっては神経をどうしても切離する必要がありますが、できる限り術後の機能障害が最小になるよう、 しっかりとした神経の解剖、および生理学の知識をもとに神経温存手術を行います。
検査
- 直腸肛門機能検査
- 肛門電気感覚検査
- 肛門超音波検査(肛門エコー)
- 排便造影検査(ディフェコグラフィー)
・肛門内圧検査
・直腸感覚検査
などの検査を組み合わせて、肛門の締まり具合、感覚を調べます。
検査についての詳しくはリンク先をご覧ください。
治療
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投薬
下痢は症状を悪化させるので、便を固める薬や大腸の運動を抑える薬などを服用します。
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食事の工夫
下痢や軟便になりやすい食べ物(カフェイン、アルコール、カレーなどの刺激物、牛乳など)は避けましょう。また、便の状態を整えるため食物繊維の摂取があげられますが、しっかり火を通し、よく噛んで食べることが大切です。
食品や飲み物と便の性状の関連は個人差が大きいので、どのような食事が自分に合っているのか見つけていく必要があります。 -
生活習慣
なるべく直腸に残便を溜めないために朝と夕、そして食後一定時間たってから、もしくは便意を感じたときにはトイレで排便を試みます。睡眠、適度な運動習慣で腸の働きを整えます。
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骨盤底筋トレーニング
排便に関与する骨盤の筋肉を鍛える運動を行います。
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経肛門的洗腸療法
専用の器具を用いて数日に一度、腸内を空(から)にする方法です。(保険適応外)

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仙骨神経刺激療法
排便機能の向上を目的に、神経刺激装置を皮下に埋め込む手術。(保険適応)
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人工肛門造設
結腸に便の排出口を造る手術です。LARSの改善が見られずQOL(生活の質)の低下が著しい場合や、介護が必要な高齢者などに検討されます。
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大腸肛門機能診療センター
大腸肛門機能(直腸や肛門のはたらきと形状)を、最先端機器と豊富な知識で運動・感覚両面から捉え検査・診断を行い、最適な治療法を選択しています。筋電図検査による簡易筋電図法を確立するなど専門病院ならではの充実した検査体制に加え、医師をはじめコンチネンスリーダーと呼ばれる排泄ケア専門看護師を配置し、臨床検査技師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、診療放射線技師、医療ソーシャルワーカー、臨床工学技士などによるチーム医療で生活指導や集学的治療を実践しています。
大腸肛門機能科部長
大腸肛門機能診療センター長