大腸肛門機能診療センター

機能性直腸肛門痛

機能性直腸肛門痛

疾患概要

器質的疾患(いぼ痔、痔瘻、切痔やがんなど)が認められない肛門や直腸の痛みや違和感は機能性直腸肛門痛と呼ばれ、肛門挙筋症候群、非特異性直腸肛門痛、一過性直腸肛門痛に分けられます。会陰や陰茎の痛みを伴う慢性骨盤痛のひとつと言われます。実は欧米では人口の11%程度の人に認められると報告があります。

  • 肛門挙筋症候群

慢性または繰り返す痛み。30分以上続く痛み。恥骨直腸筋の後方への牽引痛。

  • 非特異性機能性直腸肛門痛

肛門挙筋症候群と同様の痛みだが、恥骨直腸筋の後方への牽引痛はない。

  • 一過性直腸肛門痛

排便に関係のない、繰り返す疼痛。30分以内の数秒〜数分の疼痛。

症状

ピリピリあるいはチクチクする痛み、鈍痛、違和感、骨盤周辺や会陰が下がった感じなどの多様な症状が見られます。痛みの持続時間や感じ方も幅広く、数秒で治まる人もいれば30分以上続く人、違和感を訴える程度の人、飛びあがるほどの痛みで目が覚める人まで様々です。

原因

はっきり分かっていませんが、

  • 1. 骨盤内を支配する神経(仙骨神経)の障害
  • 2. 肛門括約筋や肛門挙筋の過緊張、痙攣 などが言われています。

加齢に伴い発症しやすい傾向がありますが、ストレスや腰痛、座りっぱなしの姿勢なども誘因となります。

検査

検査内容

  • 直腸指診

    多くは左側臥位(シムス位)とします。ゼリーを塗布後、示指を肛門内に挿入し、肛門狭窄の有無、腫瘤や痔瘻、肛門周囲膿瘍の有無を確認します。後方で恥骨直腸筋を牽引し疼痛の有無を確認します。

  • 肛門鏡診

    様々な機器がありますが、当院ではストランゲ式肛門鏡を用いて痔核、裂肛など器質的疾患の有無を確認します。

  • 経肛門超音波検査

    内括約筋の厚さが3.5mm以上を異常とし、疼痛と関連するとも報告されています。

  • 大腸内視鏡検査

    直腸癌や直腸炎などの器質的疾患の有無を確認します。直腸肛門痛の原因を診るうえでは、消化管洗浄剤を必要としないS状結腸内視鏡で十分と言えます。

  • 直腸バルーン感覚検査

    直腸内にバルーンを挿入し、どのくらいの量で便意を感じるのか(初期感覚閾値)、排便に行きたくなるか(便意発現最小量)、便意を我慢できる最大量(最大耐容量)を調べます。

  • 肛門感覚電気刺激検査

    肛門に電気を流し、どの程度の強さの刺激で感じるかを測定します。

治療

薬物療法(内服薬)

  • 漢方薬

抑肝散、牛車腎気丸、芍薬甘草湯、加味逍遙散

※会陰痛や泌尿器症状を伴う場合は八味地黄丸

  • 鎮痙薬

メトカルバモール、ジアゼパム、シクロベンザプリン

  • 神経因性疼痛治療薬

プレガバリン

  • 抗不安薬

三環系抗うつ薬 など

肛門括約筋トレーニング(バイオフィードバック)

肛門の筋肉を締めたり弛めたり運動させることによって血流を良くしたり、筋肉をほぐすことによって疼痛を軽減します。肛門にセンサーを挿入し、肛門の括約筋が働いていることを確認しながら訓練の方法を覚えます。その後自宅で自己訓練を続けます。

肛門括約筋トレーニング バイオフィードバックのトレーニング風景

低周波電気治療

  • 脛骨神経刺激療法

両下肢のくるぶし周囲にパッドや金属の刺激電極をつけて、低周波の弱い電流を流します。1日30分、週2〜3回、合計で12回行い結果を評価します。通院が難しい場合は1か月ほど入院して行う場合もあります。

脛骨神経刺激療法のイメージ写真
  • 経肛門刺激療法

肛門に刺激電極を挿入し低周波電流を流します。1日30分、週2〜3回、合計で12回行い結果を評価します。通院が難しい場合は1か月ほど入院して行う場合もあります。

経肛門刺激療法
  • 脊髄刺激療法

背中に電極と刺激装置を埋め込んで、常時低周波電流で刺激します。簡単な手術が2回必要です。1回目の手術で電極を埋め込んで2〜3日で退院した後、2週間お試し期間がありその間に効果があれば刺激装置を埋め込む手術をします。その際の入院も3〜4日です。効果がない場合は電極を抜きます。

脊髄刺激療法

ブロック注射

陰部神経、仙骨神経、下腹動脈神経叢などをターゲットとしたブロックが報告されています。通常、効果は一過性であるため、繰り返し施行が必要です。薬液としてリドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカインなどを用います。また副腎皮質ステロイド製剤を局所麻酔薬に添加する場合もあります。これらの薬剤で効果が認められれば、長期的な効果を期待して無水アルコール、フェノールグリセリン、フェノール水などを用いることもあります。

筋切開術

内括約筋が3.5mm以上のとき内括約筋を切開します。肛門挙筋症候群の場合は恥骨直腸筋を切開します。

その他

恥骨直腸筋マッサージ、温熱療法、ボツリヌス毒素注射、温水浣腸など

消散性直腸肛門痛

疾患概要

直腸肛門痛のひとつの一過性直腸肛門痛は古くから消散性直腸肛門痛とも呼ばれ、突然の激痛で悩まされる方はこの疾患が考えられます。

症状

  • 突然、予告なしに直腸や肛門が痛む

痛みの現れ方は不規則で、昼夜の区別はありませんが、夜間に多いです。痛みは突然現れ、突然消えてしまいます。痛む時間は数秒から十数分におよび、まちまちです。

  • 痛みはものすごく強く、ひどく苦しい

ズキズキ痛む、かじり取るような痛みヤットコでねじられるような痛みなど

治療

機能性直腸肛門痛と同様の治療が行われます。

大腸肛門機能診療センター

高野 正太

大腸肛門機能(直腸や肛門のはたらきと形状)を、最先端機器と豊富な知識で運動・感覚両面から捉え検査・診断を行い、最適な治療法を選択しています。筋電図検査による簡易筋電図法を確立するなど専門病院ならではの充実した検査体制に加え、医師をはじめコンチネンスリーダーと呼ばれる排泄ケア専門看護師を配置し、臨床検査技師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、診療放射線技師、医療ソーシャルワーカー、臨床工学技士などによるチーム医療で生活指導や集学的治療を実践しています。

院長
大腸肛門機能科部長
大腸肛門機能診療センター長

高野 正太 (たかの しょうた)