大腸肛門機能診療センター

直腸脱(完全直腸脱、不顕性直腸脱)

疾患概要

肛門から直腸壁全層が脱出する病気です。高齢の女性に多く、ひどくなると10cm以上脱出することもあります。筋層を伴って脱出する完全直腸脱と肛門から粘膜のみの脱出を認める不完全直腸脱(直腸粘膜脱)、肛門から脱出を認めない不顕性直腸脱(直腸重積)の3つに分類されます。不顕性直腸脱は直腸が下垂するが肛門の外には脱出せず、直腸内に止まり、直腸の壁が二重になるものです。

症状

  • 排便時の脱出や違和感
  • 粘液による下着の汚れや血液の付着
  • 便秘や残便感、肛門の閉塞感

※多くの場合、肛門括約筋不全を合併しているため術後も便失禁が見られます。

原因

直腸を支える骨盤底群および支持組織と肛門括約筋(肛門をしめる筋肉)が加齢や妊娠・出産、慢性的な腹圧の上昇などで弱くなったり、直腸から大腸の重積など様々な原因が重なり、直腸が本来あるべき位置から下がって発生します。直腸の固定不全、過長腸管、Daglas窩(子宮と直腸の間のくぼみ)の異常低位、骨盤底筋の脆弱、便秘、腹圧上昇、婦人科術後などの要因が複数関与しており、単一要因の解決だけでは再燃するリスクが高くなります。
骨盤底筋群及び支持組織と肛門括約筋の弱体化によるという説から、直腸~大腸の重積等諸々の説が報告されています。しかし若年者でも発生例があり、若年者では会陰部の組織の脆弱化は少なく、高齢者で会陰部の組織が脆弱化している症例とは明らかに骨盤底筋群の強度に差を認め、症例ごとに病態が異なっていることが推測されます。

検査・診断

検査・診断内容

直腸脱の確定診断

  • 問診

    年齢、脱出、脱出部の大きさ、漏れ、女性の場合は出産回数等を確認します。

  • 視診

    診察台に寝かせて視診を行い、直腸の脱出の有無や漏れによる肛門周囲の湿疹の有無を調べます(診察台のベッドでは直腸は脱出していないことも多いです)。

  • 指診

    指診で肛門の緊張度を調べます。直腸脱では、肛門の締まりが極端に低下していることが多く、症例によっては肛門が開いて直腸内が見えることもあります。

  • 努責診断

    観察用の便器で排便してもらい、直腸の脱出が確認されれば診断が確定します。不顕性直腸脱の場合は怒責時に肛門内で直腸粘膜の全層が重積し、肛門管を塞いでしまうように下降することが多く、また、完全直腸脱の場合は、怒責時に直腸粘膜が筋層を伴って肛門より脱出してくる様子が観察されることなどがあります。

  • 排便造影検査(デフェコグラフィ―)

    偽便を用い、直腸から肛門を通って排出に至る状態をX線下に再現させる検査法で、直腸肛門の機能あるいは形態的な変化を観察します。

原因究明

  • 骨盤部Dynamic-CT検査

    X線CT装置を用い、排便時の諸臓器の動態を三次元で表示し、それらの下垂の状況を診断する方法です。

  • 直腸肛門機能検査

    直腸肛門内圧検査や直腸感覚検査など、直腸肛門の機能を多角的に検査します。

他に手術の際に麻酔をかけるのに必要な検察として、血液検査、尿検査、心電図、心臓超音波検査、呼吸機能検査等を行います。

治療

根治には手術が必要になります。手術方法は大きく分けて次の2つの方法があります。

比較項目 経腹的手術 経会陰的手術
方法 お腹の方から直腸をつり上げて固定する方法 肛門側から脱出した直腸を縫い縮めたり、肛門を脱出しない程度に狭小化する方法
利点 再発が少ない(数%)
腹腔鏡で行うことで侵襲を低くできる
全身麻酔で行っているが、高リスク症例では腰椎麻酔でも可能
体に対する侵襲が少ない
欠点 全身麻酔が必要
体への侵襲が大きい(※腹腔鏡下手術だと侵襲を小さくできる)
開腹歴があると腹腔鏡でできないことがある
脱出長が長い場合や小腸瘤合併例では再発率がやや高い
脱出長が長いとできない
(術前脱出5㎝迄を適応としています)

経腹的手術:直腸つり上げ固定術

  • 開腹術
経腹的手術:直腸つり上げ固定術 開腹術
  • 腹腔鏡下手術
経腹的手術:直腸つり上げ固定術 腹腔鏡下手術

経会陰的手術:当院で行っている経会陰的手術

  • Delorme術(デロルメ術)

脱出直腸を縫い縮める方法。当院で経肛門手術の第一選択としている術式。

経会陰的手術 Delorme術
  • Gant-三輪術

脱出直腸を縫い縮める方法。国内でもっとも行われている術式。再発率がやや高い。

経会陰的手術 Gant-三輪術
  • Thiersch術

肛門周囲に糸をかけて、肛門を縫い縮める方法。括約不全(肛門の締まりが悪い)を伴う患者さんに付加。

経会陰的手術 Thiersch術

大腸肛門機能診療センター

高野 正太

大腸肛門機能(直腸や肛門のはたらきと形状)を、最先端機器と豊富な知識で運動・感覚両面から捉え検査・診断を行い、最適な治療法を選択しています。筋電図検査による簡易筋電図法を確立するなど専門病院ならではの充実した検査体制に加え、医師をはじめコンチネンスリーダーと呼ばれる排泄ケア専門看護師を配置し、臨床検査技師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、診療放射線技師、医療ソーシャルワーカー、臨床工学技士などによるチーム医療で生活指導や集学的治療を実践しています。

院長
大腸肛門機能科部長
大腸肛門機能診療センター長

高野 正太 (たかの しょうた)