がん診療センター

大腸がん

疾患概要

大腸がんとは大腸(結腸・直腸)の内側の粘膜に発生するがんで、腺腫という良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。大腸は、栄養吸収がおおむね終了した消化管液から水分を吸収し、便を形作る役目をしています。身体には吸収した水分を浄化して血液中に取り込んでいくメカニズムがありますが、粘膜から発生したがん細胞も、基本的にはこのメカニズムに沿って進展していきます。
日本人ではS状結腸と直腸にがんができやすいといわれており、高齢化と食生活の欧米化などにより年々罹患数が増えています。大部分は生活習慣によるものですが、他にも遺伝性大腸がんや、潰瘍性大腸炎・クローン病患者にみられる長期の慢性炎症から発生するがんもあります。

大腸癌の拡がり方

症状

初期症状はほとんどありません。進行がんになると以下のような症状も見られます。

便秘

大腸に大きいポリープやがんができることで腸管が狭くなり、便の通過が悪くなります。便が細くなったり出にくくなっている場合には、大腸がんも視野に入れて診断を行います。
当院では、便秘の治療の際にほとんど全員の方にS状結腸内視鏡検査をお勧めしています。検査の結果から、大腸がんなどの病気が否定された場合には、必要に応じて便秘の検査と治療を行います。

出血

大腸がんからの出血が原因で、排便時に出血がある、または便に血が混じるなどの症状がしばしば起こります。はじめのうちの出血はごく少なく、気がつかない程度なので、定期的な便潜血検査が大切です。
直腸がんの場合:便に赤黒く血が付着していたり、粘血便がみられたりすることがあります。
結腸がんの場合:便が黒っぽくなります。
このような症状は、一般的に痔の症状と思われることが多く、“診察が恥ずかしい”といった理由からついつい病院に行きそびれ、がんが進行してしまうことがあります。痔からの出血は、肛門部からの出血で、排便時などに色の鮮やかな血(鮮血)がぽたぽた落ちたり、排便時に痛みがあります。

肛門がんは、肛門部のしこり、出血、痛みなどの症状が現れ、非常に痔と間違えやすいがんです。いずれにしても、専門医の適切な診断が必要です。腫瘍が大きくなると、便秘や下痢といった排便障害、下血・血便、腹痛・腹部膨満といった腹部症状などを伴うようになります。

検査

大腸がんでは、大腸がんであることの診断と、どこまでがんの拡がりがあるかの診断を、いろいろな検査法を用いて総合的に行います。

  • 大腸内視鏡検査

    検査で大腸がんを疑う病変が見つかった際には病変の一部を採取して、病理検査でがんかどうかを顕微鏡で確認し、大腸がんと診断します。

  • 注腸検査

    肛門よりバリウムと空気を注入して大腸の形態や大腸粘膜の状態、炎症・腫瘤の有無をX線で観察します。下剤による前処置が必要です。

  • 大腸CT(CTC:CT Colonography)

    大腸CTはガスを注入して大腸を拡張させて、CT装置で腹部を2体位撮影します。診断はワークステーションを用いて、大腸の二次元(2D)・三次元(3D)像を構築して大腸がんやポリープ等を見つけることができます。内視鏡を大腸の中に入れなくても腸の中を実際に観察したかのように調べることができ、大腸がんの部位の同定や壁深達度の診断にも使用します。また、大腸癌における腹腔鏡下手術において安全かつ迅速に遂行するために大腸癌・血管・リンパ節などの位置関係を術前にイメージできる手術支援画像を作成することができます。

  • 腹部エコー
    (ソナゾイドエコー)

    超音波検査における造影検査に相当し、特殊に加工して細かくしたairを静脈内に投与してエコー検査をします。

  • MRI検査

    強力な磁石と電波を使って磁場を発生させて行う検査で、体の内部の断面をさまざまな方向から画像化でき、放射線を使用しないため放射線被ばくはありません。大腸がんの壁深達度やリンパ節転移・遠隔転移の診断のために腹部や骨盤などを検査します。尚、当院にはMRIがありませんので、必要な場合は連携医療機関での検査になります。検査の目的によっては、造影剤を使用する場合があります。

  • PET検査

    細胞分裂するときにはエネルギー源として糖が細胞内に取り込まれます。生きているがん細胞は糖分の取り込む量が多いため、検出装置で検出できるように標識した糖分を静脈内に投与し、その取り込む量の多いところを画像にして出力し、CTと比較して病変の拡がりをみる検査です。

  • 肛門機能検査

    大腸がんの中でも直腸がんの手術は肛門の機能に影響を及ぼし、便失禁など来す場合も考えられるため、直径5mm程度の細い管を使用して(手術前後の)肛門の機能を調べます。肛門の締まり具合や働きを数値で評価するものです。

診断

検査から癌の広がり具合(進行度)をステージ(病期)で診断します。
ステージは、癌が大腸の壁に入り込んだ深さ(深達度)、どのリンパ節までいくつの転移があるか(リンパ節転移の程度)、肝臓や肺など大腸以外の臓器や腹膜への転移(遠隔転移)の有無によって決まります。ステージ0が最も進行度が低く、ステージⅣが最も進行度が高い状態です。治療方針を立てる上で、治療前にステージを正確に予測することが重要です。

  • 深達度による分類

治療

大腸がんの治療方針(ステージ別)

内視鏡治療

ステージ0~Ⅱで内視鏡での摘除が可能と判断された場合は、内視鏡的治療を行います。詳細はこちら

外科的治療(手術)

大腸がんの手術にはいくつかの種類があり、病変の場所・程度によって術式を選びます。
術前および術中迅速病理診断でリンパ節転移が疑われる場合は、広い範囲でのリンパ節郭清を行います。リンパ節転移を認めない場合は、壁深達度に応じてリンパ節郭清を行います。

  • 腹腔鏡下手術

少しでも苦痛や侵襲が少ない手術の実現を目指して、腹腔鏡というカメラを使用した手術です。

  • 利点:
  • 出血量が少なく輸血が不要
  • 術後の排ガス、歩行、食事開始などが早く、早期退院が可能
  • 術後の癒着障害の減少
  • 創部が小さく、美容に優れる
  • 欠点:
  • 手術時間が長い
  • 手術手技が煩雑で、熟練を要する
  • 過度の肥満、手術既往症例などでは不適
  • 結腸がん
  • 結腸切除術
  • 直腸がん

直腸がんの手術方法は、がんの部位、大きさ、進行度によって異なります。直腸は直腸S状部(RS)、上部直腸(Ra)、下部直腸(Rb)に分けられ、RSがんとRaがんに対しては、一般的に 「高位前方切除術」、「低位前方切除術」が行われます。更に 「超低位前方切除術」もあります。
また、Rbがんに対しては永久的な人工肛門をつくる直腸切断術(マイルズ手術)が行われてきました。このような永久的な人工肛門を避けるべく、当院では 「括約筋間直腸切除術(intersphincteric resection:ISR)」に積極的に取り組んでいます。

  • 自律神経温存術

がんの性質や進行の程度に応じた各種の自律神経を温存する手術方法(全温存法、片側温存法、部分温存法)。従来の自律神経を切り離した手術方法と比較すると、排尿障害および性機能障害ともに明らかに少なくなっています。

  • 肛門温存術

・ 高位前方切除術:腹膜反転部より上で腸をつなぎあわせる
・ 低位前方切除術:腹膜反転部より下でつなぎ合わせる
・ 超低位前方切除術:肛門挙筋の直腸付着部で直腸を切離・吻合する方法
・ 括約筋間直腸切除術(ISR):下部直腸がんや肛門管がんに対してストーマを造らずに癌を根本的に治癒する根治手術法。内肛門括約筋を切除するために、残された外肛門括約筋と肛門挙筋のみで括約筋機能をはたすこととなります。

  • 直腸切断術、骨盤内臓全摘術 など

なお、吻合が困難や禁忌の場合には、直腸切除しS状結腸で人工肛門を造る手術(ハルトマン手術)を行う場合もあります。

※2013年発行「大腸癌取扱い規約(第8版)」に則り、これまで「内肛門括約筋切除術」と表記されていました術式を「括約筋間直腸切除術」に変更しております。なお、過去の新聞・雑誌の記事は変更いたしませんのでご了承ください。

化学療法

一般的に抗がん剤を使用する治療のことをがん化学療法と言い、がん病巣のダウンステージングで手術切除をより容易にするとともに、微小転移のリスクを根絶して、治癒率の向上を目的として行う術前化学療法(NAC;neoadjuvant chemotherapy)、根治手術の再発予防を目的として行う術後補助化学療法と、根治手術ができない場合や再発した場合に行う化学療法があります。

  • 化学療法に使用される薬剤
  • 殺細胞性抗がん剤:細胞中のDNAを標的として細胞を障害するもの
  • 分子標的薬:癌細胞の増殖に関与する特定の分子に作用して細胞増殖を抑制するもの
  • 副作用を軽くするための薬

必要に応じて、吐き気止めなどの薬剤を使用する場合もあります。大腸がんに有効な抗がん剤はいくつかあり、当院では薬剤の単独投与または、いくつかを組み合わせた投与が行われています。

  • 投与法
  • 全身化学療法:全身に抗がん剤を投与します。点滴のみ、内服のみ、点滴と内服を併用する方法があります。
  • 副作用

がん細胞を殺す目的で用いる薬剤が正常な細胞にまで影響を与えることで副作用が生じます。一般的に次のような症状があらわれることがあります。また、使用する薬によってこれら以外の副作用があらわれることがあります。副作用は抗がん剤の投与を中止すれば治りますが、抗がん剤の投与に当たっては、予想される副作用に対する予防を行うと共に、定期的な血液検査や自覚症状の観察などで、副作用と抗がん剤の効果とのバランスをとって治療を行っていきます。それでも、副作用が大きい場合には、投与用法を変更したり、治療を延期したり中止したりする場合もあります。

  • 消化器症状:食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、便秘、口内炎、腹痛
  • 骨髄機能抑制:白血球減少、赤血球減少、血小板減少
  • 神経症状:しびれ、味覚異常
  • 皮膚症状:色素沈着、発疹、手掌紅斑、皮疹、落屑、脱毛
  • 眼症状:流涙、眼充血
  • その他:発熱、倦怠感、頭重感、尿量減少

当院で行っている化学療法の代表的な薬剤やレジメン(治療計画)については こちら

(化学)放射線療法

  • 術前(化学)放射線療法:直腸がん術前に腫瘍量減量し、局所再発の抑制を目的に他院と連携し行います。
  • Total Neoadjuvant Therapy(TNT):直腸がん術前に腫瘍量減量し、局所再発の抑制と遠隔再発の抑制を目的に術前化学放射線療法と化学療法を行います。
  • 補助放射線療法:直腸がん術後の再発抑制を目的に他院と連携し行います。
  • 緩和的放射線療法:切除不能進行再発大腸がんの症状緩和や延命を目的に他院と連携し行います。

がん診療センター

佐伯 泰愼

検診による早期発見、正確で安全な診断技術、根治性と機能温存による患者さんの生活の質を配慮した最新の技術、人間性を重視した緩和ケア。これらをプロフェッショナルなチーム医療により切れ目なく実践するのが当院の目指すがん診療センターです。個々の患者さんの病状に応じて、部門横断的な診療体制で支えます。

副院長
がん診療センター長

佐伯 泰愼 (さいき やすみつ)