肛門科

痔瘻(痔ろう / 俗称:あな痔)

疾患概要

肛門の周囲に膿がたまる肛門周囲膿瘍が破れて(切開して)膿の管ができた状態です。肛門の周りの小さな穴から膿が出たり、湿疹ができたり、かゆみや痛みを伴うことがあります。原則として自然治癒は少なく、治すには手術が必要となります。
膿の管は勝手にあるわけではなく、ちゃんとしたルールをもって広がっています。その入口は肛門と直腸との境にある波形の歯状線といわれる所の凹みの部分にあり、これを痔瘻の原発口あるいは一次口とよびます。そこから括約筋を貫いて肛門のまわりに開口します。これが外口、あるいは二次口とよばれるものです。その間にある膿の管を瘻管といいます。原発口はもともと肛門腺の開口部で、そこが化膿して膿の管ができるのです。
痔瘻の中には、肛門のまわりに開口しないで奥の方へと進んで直腸のまわりに広がったり、直腸の中へ破れているものもあります。

症状

  • しこり
  • かゆみ
  • 湿疹
  • 腫れ・化膿
  • 発熱

原因

腸と肛門の境は歯状線といって波型になっており、その凹みは、肛門小窩あるいはクリプトとよばれています。その奥には肛門腺という、たとえば汗を出す汗腺や脂肪を出す皮脂腺に似た腺があります。腸の中には無数の細菌が常に生存していますが、たまたまこれが下痢などで運悪くクリプトから肛門腺内に入り込み、感染を起こすことがあります。これはたとえていえば、ニキビが化膿するようなものです。この化膿によって膿が大量に肛門の周りにたまり(肛門周囲膿瘍/こうもんしゅういのうよう)、ズキズキと夜も眠れないほどたいへん痛んだり全身あるいは局所的な熱を伴います。さらに進行して肛門の内外をつなぐ膿の管・トンネルができると痔瘻になります。

検査

検査内容

  • 問診

    症状だけでなく、痔瘻の原因になりやすい生活習慣になっていないかを確認します。

  • 視診

    発赤や腫脹、肛門周囲にできた二次口(肛門の外側に出来た穴)を確認します。

  • 指診

    指で触って膨らみや痛みを知ることによって診断し、管の走行を指で確認します。

  • 画像診断検査(CT検査・ 超音波検査・MRI検査)

    必要に応じて画像診断検査を行います。

治療

薬物療法

薬に関しては、化膿の拡大を防ぐために抗生物質、痛みや腫れを除くのに消炎鎮痛剤などを補助的に使用することがあります。

外科的療法

痔瘻を治すには手術に頼るしかなく、以前は痔瘻を開いたり(瘻管開放)、切り取ったり(瘻管切除)して治していました。この方法では痔瘻は治りますが、これと引き換えに括約筋という肛門を締める筋肉も切られてしまいます。軽い痔瘻は残りの筋肉の働きで補うことができますが、複雑な痔瘻ではこの括約筋がひどく切られてしまい、便やガスが漏れるようになったりします。この弊害をなくすために、最近は括約筋を切らずに痔瘻を治す方法が考案されています。現在では多くの場合、括約筋を切らずに手術されていて、これを括約筋温存術式と呼んでいます。以前の括約筋温存術式では痔瘻が再発するケースがありましたが、現在の改良された術式ではそういうことはほとんどなくなりました。
手術には大きく分けて3つの方法があります。痔瘻の瘻管(膿の管)がどこに存在するか、深さがどうかによって選択されます。
当院では術後の肛門機能の温存を重視し、筋肉の障害の少ない括約筋温存術を第1選択としています。大腸肛門機能診療センターと連携して術前には直腸肛門機能検査を行い、術後も肛門機能の定期検査を行っています。

  • 括約筋温存術(くりぬき法)

肛門から皮膚へつながる道(瘻管)のみをくりぬく方法です。括約筋を残して肛門の機能に障害を与えないようにします。
主に前・側方の低位筋間痔瘻に行われます。Ⅲ型・Ⅳ型の深い痔瘻には括約筋の側方からアプローチを行い、括約筋の損傷をできるだけ少なくする術式を行っています。

  • 開放術

主に皮下痔瘻、高位筋間痔瘻、二次口が肛門縁に近い低位筋間痔瘻に行われる、最も再発が少ない方法です。瘻管を切開(切除)し、括約筋を一部切ることになります。

  • シートン法

括約筋の障害を少なくする目的で行う術式で、瘻管にゴムやチューブを通して、ゴム輪を締める力を利用して瘻管を徐々に切開します。肛門の傷が固まりながら切れていくので肛門の変形が少ないとされています。入院期間は短期ですみますが、定期的な通院を要します。治癒までに時間がかかるのが欠点です。

  • 再生医療

炎症性腸疾患のクローン病の患者様に伴う複雑痔瘻に対しては、健康成人の皮下脂肪組織から分離した幹細胞を培養して造られた、再生医療等製品であるアロフィセルを使用して治す方法があります。治療適応に当たると判断された場合、投与前に瘻孔の処置を行い、後日瘻管内に注射で投与します。免疫作用で瘻管の炎症を抑え、治癒に導きます。

肛門科

辻 順行

大腸肛門の専門病院の中核となる診療科として、肛門のあらゆる疾患について診断・治療をいたします。
4つのセンターとの強固な協力体制の下、3大肛門疾患である痔核、痔瘻、裂肛のほか、直腸肛門周囲膿瘍や坐骨直腸窩痔瘻、骨盤直腸窩痔瘻などの深部痔瘻、再発痔瘻、直腸脱、フルニエ症候群、クローン病に関係した痔瘻、肛門狭窄、手術後の後遺症などあらゆる難治性肛門疾患の治療を積極的に行っています。

副院長

辻 順行 (つじ よりゆき)